私は、31才にして公認会計士という資格があることを知り、これに挑戦しようと一大決心した。公認会計士試験の科目は、選択科目以外は面白くなかったが、合格後の明るい将来を夢見て、マイペースながらも独学で勉強を続けていた。そして私は、4回目の受験となる2010年第2回の短答式試験で、ようやく合格水準に達した。このとき、私は間違いなく合格したはずだったが、実際はそうならなかった。それは、試験を実施している公認会計士・監査審査会が、2009年から短答式試験の合格水準を操縦し、合格者を強引に絞り込んでいたからである。私は、金融庁による投資詐欺事件の一被害者となり、その後も結局、第一関門を突破することができなかった。
私は、試験勉強に4年半余りを費やしたが、この時間は全くの無駄になった。公認会計士試験の勉強は、公認会計士以外は、実社会で殆ど汎用性がないからである。私は、この勉強時間だけ、勉強ではなく就業することによって得られたはずの収入を失った。その他、試験勉強のために費やした教材費、受験手数料を始め、様々な損失を被った。又、私が将来、公認会計士になっていたとしたら得られたはずの比較的高い収入も得ることができなくなった。最後に、公認会計士・監査審査会の不当極まりない合否決定に伴い、私の人生計画に回復することができない狂いが生じた。これによる精神的苦痛に基づく損害も忘れてはならない。
私は、これらの損害を回復するべく、国家賠償訴訟の準備を始めた。短答式試験から撤退後、1年程経過してのことである。私は、短答式試験の合格水準を分析したり、上述の様々な損害の金額を計算したりした。試験勉強に使った書籍やノートの山を写真に撮ったりもした。又、公認会計士・監査審査会に対して保有個人情報開示請求を行った結果、自分の成績を立証する証拠を入手することができた。短答式試験の得点データに関する行政文書開示請求もしてみたが、こちらは非開示決定の通知を受けた。しかし、これにより、同審査会が「短答式試験の科目別正解率」と「短答式試験の得点階層分布グラフ」という資料を保有していることが判明した。
訴状に記載する事件名は、「損害賠償請求事件」とした。つまり、金銭による賠償のみを求めたのである。他に、短答式試験の不合格決定を取り消すよう請求することも考えられる。しかし、裁判が何時まで掛かるか分からないし、短答式試験合格者の地位を回復したところで、直ぐに公認会計士になれる訳ではないので、この請求には何のメリットもない。そもそも、私は、挑戦から撤退した時点で公認会計士になる気を無くしているので、この選択肢は無いのである。
私は、証拠を一通り揃え、訴状を書き上げたところで、これらの正本と副本を長野地方裁判所に提出した。請求金額が140万円超のため、簡易裁判所ではなく、地方裁判所である。私は、過去に何度か本人訴訟を経験していたので、今回も代理人を用いることなく提訴した。
私は、準備段階から、公認会計士短答式試験についての意見募集の頁を設けていた。又、数学や統計学の本を著した専門家20名余りに手紙を送り、短答式試験についての所見を求めた。第三者が作成した証拠は証拠能力が高いので、これを裁判所に提出して、訴訟を少しでも有利に進めようと目論んでいたのである。しかしながら、結局、最後まで誰の手助けも得ることができなかった。
私は当初、事件内容が複雑であるため、裁判が長期戦になると予想していた。ところが、2012年7月30日の提訴から2013年3月19日の判決まで、僅か8ヶ月足らずで呆気なく終結してしまった。この間に開かれた口頭弁論は、4回だけである。詳しい訴訟の経緯は、国家賠償訴訟の展開で知ることができる。
刑事告発と同様に、訴状を始め、国家賠償訴訟の過程で私が裁判所に提出した書類の一部を、以下に公開する。私のように、受験被害者で本人訴訟を検討している諸君は、一読すると良いだろう。
訴状(PDF)
2012年7月30日、長野地方裁判所に提出し、その後、第1回口頭弁論にて陳述したものである。私(原告)の請求の概要を記載している。
公認会計士短答式試験の分析(甲4号証の1)(PDF)
1995~2011年の短答式試験を分析し、2009年以降に合格倍率が異常なまでに上昇したことを説明している。この書証は、訴状と共に提出している(下記の甲4号証の2、甲4号証の3も同様)。尚、刑事告発の資料公認会計士短答式試験の分析(PDF)は、2012年以降の試験の分析も加えられ、又、分析方法が若干改良されている。
同一年の短答式試験の公平さ(甲4号証の2)(PDF)
これは、2010年第1回及び第2回の短答式試験が、合格率が極端に異なっており、不公平であることを述べている。又、2011年の試験についても同様である。
公認会計士短答式試験自己成績の分析(甲4号証の3)(PDF)
原告が受験した2008年~2011年の短答式試験の成績を示している。原告が、少なくとも2回、従来の合格水準に達していたにもかかわらず、不合格にされたことを説明している。
準備書面2(PDF)
第2回口頭弁論で被告が陳述した第1準備書面に対する原告の反論である。第3回口頭弁論にて陳述した。2009年以降の公認会計士短答式試験は、「公認会計士になろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定すること」を目的として実施されておらず、この点で、公認会計士・監査審査会は、公認会計士法第5条に反する違法行為を働いたことを主張している。又、金融庁及び日本公認会計士協会が、2009年以降に大量発生した未就職者(待機合格者)を抑制するために、公認会計士・監査審査会に対して合格者数の削減を要請したことが、同審査会による当該違法行為の背景にあることにも触れている。
文書提出命令申立書(PDF)
原告が受験した計6回の試験について、「短答式試験の科目別正解率」と「短答式試験の得点階層分布グラフ」を被告に提出させるよう、裁判官に求めたものである。第4回口頭弁論の当日に提出したが、裁判官に「必要性がない」と言われ、即却下されてしまった。文書提出命令の申し立てについては、民事訴訟法第219条以降に規定されている。