トランス脂肪酸


水素添加

トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングを製造する際、油脂に「水素添加」という処理を施すことで生じる。水素添加というのは、高温高圧の状態でニッケルなどの触媒を用いて不飽和脂肪酸に水素を付加する化学反応である。これにより不飽和脂肪酸は、その炭素原子間の二重結合数が減少する。例えば、アルファリノレン酸はリノール酸に、リノール酸はオレイン酸に変化する。しかし、この水素添加処理の過程で、二重結合部分がシス型からトランス型に変化した脂肪酸が生じる。これがトランス脂肪酸(通称トランス脂肪)である。尚、自然界に存在する脂肪酸の大部分はシス型であり、トランス型のものは稀にしか存在しない。


トランス脂肪の危険性

このように、トランス脂肪は、水素添加という特殊な環境で生じる人工物である。この理解があれば、トランス脂肪は、十分な検証によって「人の食べ物である」と確認されるまでは口にすべきでない、と判断できよう。ところが実際、様々な研究によってトランス脂肪は「人の食べ物ではない」ということが証明されつつある。現在のところ、トランス脂肪が冠状動脈疾患や動脈硬化症のリスクを高めることが判明している。又、トランス型の脂肪酸が、正常なシス型の脂肪酸と一緒に、全身の細胞膜や脳の脂肪に取り込まれることで、それらの機能が低下し、様々な病気の温床になっていると指摘する研究者もいる。トランス脂肪は、摂取しても何の健康利益ももたらさず、ただ害になるだけである。


天然のトランス脂肪

実は、トランス脂肪は天然にも存在する。例えば、牛の体内にはバクセン酸というトランス脂肪がある。しかしながら、バクセン酸は、抗癌作用のある共役リノール酸(CLA)と一緒に存在している。又、バクセン酸は、牛の体内或は摂取した人の体内で、CLAに変化する、という報告もされている。よって、バクセン酸は、水素添加によって生じるエライジン酸などの人工のトランス脂肪とは別の物質である、と理解すべきだろう。

記録によると、人は何千年も前から、牛乳、バター、チーズなど、牛由来の脂肪を摂取してきたという。他の反芻動物についても同様である。それ故、これらが人体に有害であるとは考えにくい。一方、人工のトランス脂肪は、特殊な条件下で生成される物質であり、地球上の如何なる生物の中にも存在しなかった物質である。人がこの未知の物質を体内で適切に処理できるとは到底考えられない。この観点からも、天然由来のトランス脂肪は摂取しても良いが、人工のトランス脂肪は避けるべきである、という結論に達する。


マーガリン、ショートニング

油脂は、これに水素添加を施して硬化することで、マーガリンやショートニングとして利用できるようになる。これらの硬化油は、パン、ケーキ、各種フライなどの加工食品に使われる。そして、製造後に時間を置いてからも中の油脂が常温で半固体の状態であるため、食品は、その量感や形状、適度な硬さが保たれる。

又、水素添加された油脂は、酸化されにくく、長持ちする。これは、水素添加処理の過程で、油脂の不飽和の二重結合(酸化の原因)が減少するためである。鰯[いわし]などの魚から取った魚油は、EPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸を含むため、とても酸化され易い。そのため、魚油は、水素添加されてショートニングなどに用いられるという。

しかしながら、原料の油脂が主に飽和脂肪酸の場合で融点が十分に高い場合は、水素添加しなくてもショートニングとして使うことができる。バター、ラード(豚脂)、パーム油などは、飽和脂肪酸の含有率が高く、常温で半固体である。だから、加工食品の中には、これらの油脂が硬化されずに使われているものもある。しかし実際には、硬化した大豆油など使う方がコストを抑えられるためなのか、或は油脂の融点を調整するためなのか、水素添加されたマーガリンやショートニングが主流のようである。


短命油脂

因みに、ショートニングというのは、"shorten"という単語の「サクサクにする、脆くする」という意味に由来しているという。しかし、ショートニングには"life-shortening"(短命)という解釈が相応しい。何故なら、ショートニングに含まれるトランス脂肪が「心臓病のリスクを高める」ということは、即ち「寿命を縮める」ことに他ならないからである。そこで、当面の安全措置として、マーガリン、ショートニング、或は「加工油脂」などと記載されているものは、「短命油脂」と読み替えておくのが良いだろう。


脂肪酸と健康

脂肪酸とは何か?
トランス脂肪酸
トランス脂肪の規制
トランス脂肪の回避法
オメガ3脂肪酸の摂取法

参考資料

Trans fat (Wikipedia)
Hydrogenation (Wikipedia)
Conjugated linoleic acid (Wikipedia)

© 2007 島崎 崇
更新: 2013年4月14日