トランス脂肪の回避法


(1) 硬化油

ここでは、トランス脂肪の摂取を効果的に減らす方法を考える。トランス脂肪は、トランス脂肪酸の頁で述べたように、水素添加された油脂(硬化油)に含まれている。代表的なものは、マーガリンとショートニングである。これらの中には、硬化油を使用していないものもある。トランス脂肪の危険性が叫ばれている昨今に於いては、そういった商品は、恐らく「トランス脂肪ゼロ」とか「水素添加油脂不使用」などとアピールしているであろう。つまり、そういった記載が無い場合は硬化油が使われている可能性が高い、と考えられる。商品や製造会社によって含有率が大きくばらついているようだが、私が調べた限りでは、マーガリンやショートニングは重量の10%程度がトランス脂肪である。これらの硬化油自体は、極力避けたい。新たに購入しないのは勿論のこと、使用中のものは廃棄すべきである。


硬化油を含んだ食品

次に、マーガリン、ショートニングが含まれている加工食品について述べる。加工食品には、商品のパッケージに成分表示がついているので、これを一つの判断材料にする。尚、表示が正当な場合、原材料は重量の多い順に記載されているので、この順番も考慮に入れる。又、マーガリン、ショートニングではなく、「加工油脂」などと表示されている場合もあるので、この場合も注意する。これらの硬化油の含有量が多いと思われる食品ほど、積極的に避けるべきである。

具体的には、パン、ケーキ、ドーナツ、クッキー、ビスケットなど、多孔質の加工食品に、しばしば硬化油が含まれている。但し、これらの中には、硬化油ではなくバターやパーム油などを使っているものもある。この点は、成分表示を見れば判断できる。但し、悪意ある業者は、分かりにくいことを良いことに、例えば、実際にはマーガリンを使っていながら成分表にバターと偽装表記するかも知れない。だから、成分表示は、そのまま鵜呑みにはせず、慎重に判断する必要がある。ところで、パンの中でもフランスパンは、通常、油脂が含まれていない(フランスパンが食パンなどよりも硬いのはそのためである)。パンを頻繁に食べる人は、フランスパンを選択すると良いだろう。


(2) 硬化油を含む疑いのある食品

トランス脂肪の規制で述べたように、2012年現在、日本に於いては、トランス脂肪に関して何も規制がされていない。主に消費者庁と食品安全委員会がトランス脂肪の問題について扱っているが、何れも規制には後ろ向きの姿勢で、国民の役に立っていない。このような状況に於いては、残念ながら、消費者は自ら十分に情報収集した上で推測によって判断せざるを得ない。以下に硬化油が含まれていると思われる食品について記載するが、これも私の推測に基づいている部分がある。


食用油

食用油は、精製の過程で軽度に水素添加されることがある。これは、油脂を硬化させるのが目的ではない。油脂の含有率が低く、圧搾法では油脂を抽出できない大豆、米糠などの場合、化学的な手法を用いてある意味強引に油脂を抽出する。すると、本来なら植物中に含まれているはずの抗酸化物質などの有益な成分が消え失せてしまう。そうなると油の酸化が急速に進んでしまうので、これを防がなければならない。そこで、酸化し易いアルファリノレン酸やリノール酸に水素を付加し、油脂の酸化安定性を高めるのだという。その後、酸化防止剤の添加も行われる。尚、圧搾によって抽出された油の場合は、その植物中の抗酸化物質も一緒に搾り出されている。そのため、これらの油は、水素添加せず、又酸化防止剤を加えずとも、ある程度の期間保存が効く。

このような訳で、精製された食用油は1〜2%程度のトランス脂肪を含むようである。含有率がマーガリンやショートニングといった硬化油の1/5〜1/10程度なら、精製食用油は摂り過ぎないように気を付ける、というくらいの対応で良いだろう。それでも気になる人には、化学的処理を施していない食用油を勧める。例えば、胡麻[ごま]油やエクストラバージンオリーブオイルなどは、日本のスーパーマーケットなどでも手に入る。もし近所の店に目当ての油が無い場合は、ネット上で良いものを探せば良い。


スナック菓子

ポテトチップやポップコーンなどのスナック菓子には、大抵、大量の油が使われている。そしてこの油には、相当量のトランス脂肪酸が入っているという。ところが、何故かそれらのパッケージには、マーガリン、ショートニング、或は「加工油脂」等の表示が無い。代わりに「植物油」のような表示が成されている。もし精製食用油を使って揚げれば、油脂中のトランス脂肪の含有率は1〜2%程度になるはずである。そうならないのは、硬化油で揚げられているからかも知れない。これらについては私は確信が持てないが、念のためになるべく避けているのが無難だろう。

そもそも、スナック菓子や次項のファーストフードは、ジャンクフード(がらくた食品)と呼ばれている。何故なら、この手の食品は味を良くするために油や糖を大量に使い、その陰でビタミン、ミネラルなどの微量栄養素は犠牲になっているからである。栄養ではなく味によって食べ物を選ぶような短絡思考の人を惹きつけるために余計な加工が施されているのが、ジャンクフードなのである。これらは、決して教養ある人の食べ物に値しない。食べることに価値があるとすれば、ただ飢え死にを回避できることのみである。


ファーストフード

ファーストフード店で売られているハンバーガー、フライドポテト、フライドチキン、ピザ、ドーナツなどにも大量の油が含まれている。そして、これらの調理に使う油に、しばしばショートニングが使われているという。又、ファーストフード店では、持ち帰りができるところが多い、という点に注目したい。つまり、硬化油を使うことで、揚げ立てでなくても食品の形状や食感が失われないように(同時に、顧客も失われないように)しているのではないか、と考えられる。ファーストフード店の中には、フライ用の油を従来よりもトランス脂肪の少ないものに置き換えたところも出てきたようである。いずれにせよ、他の選択肢があるならば、わざわざファーストフード店に立ち寄って健康を損ねる必要はあるまい。


外食の料理

料理店に行ったり、弁当を注文したりなどして、頻繁に外食する人は、天ぷらやフライの類について気をつける必要がある。店員に聞くなどして、これらの調理に使われている油に硬化油が含まれていない、と確信できる場合は、トランス脂肪に関しては殆ど問題無い。しかし、多くの場合、これを知ることは困難であろう。そのようなわけで、外食では揚げ物料理はなるべく選択しないようにするのが賢明かも知れない。揚げ物が避けられない場合は、衣が取れ易い揚げ物についてはこの部分を食べ残す、などの手段も考えられる。


マヨネーズ

マヨネーズの約7割は油で構成されている。マヨネーズは粘性があるため、マーガリンと同様に硬化油が含まれているのではないか、と心配になる人もいるだろう。しかし、そのような心配は不要である。何故なら、マヨネーズは、食用油と酢、ここに卵黄を乳化剤として加えることでそのような状態になっているからである。すると、使われている食用油が軽度に水素添加されていたとしても、マヨネーズ中のトランス脂肪は僅か1%程度と予想される。食用油と同様、食べ過ぎにさえ注意していれば、完全に拒否する程のこともないだろう。


バター

バターは、牛乳から作られるので、人工のトランス脂肪をまったく含んでいない。それにもかかわらず、私が敢えてこの食品に言及するのは、何も反芻動物の体内にある天然のトランス脂肪も避けよ、と言うためではない。これは、同じ「トランス脂肪」と呼ばれながら、人工のトランス脂肪とは異なるため、避ける必要は無い。私が言いたいのは、本物のバターを選ばなければならない、ということである。

現在の日本のような、経済の過酷な競争と違法行為に対する緩慢な罰則という状況に於いては、会社は利益を上げるために益々手段を選ばなくなり勝ちである。これを、バター或はマーガリンの製造販売会社に適用すると、何が起きるだろうか? バターよりも安価なマーガリンを使用することで、マーガリンが混入したバター或はバターの風味を付けたマーガリンを製造し、単にバターと称して販売することが考えられる。その結果、消費者は、知らないうちに、本物のバターではなく、人工のトランス脂肪入りの「偽バター」を買って口にしてしまうかも知れないのである。これは、架空の話ではない。実際に、私は先日、あるスーパーマーケットで「バターとマーガリンの混合物」なる商品を目にしたのであるから。


脂肪酸と健康

脂肪酸とは何か?
トランス脂肪酸
トランス脂肪の規制
トランス脂肪の回避法
オメガ3脂肪酸の摂取法

参考資料

Trans fat (Health Canada)
トランス脂肪酸に関する情報 (消費者庁)
トランス脂肪酸に関する情報 (農林水産省)

© 2007 島崎 崇
更新: 2013年4月14日